GINZA SONY PARK PROJECT

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都市と仮想現実の未来

Casa BRUTUS 編集長
松原亨
クリエイター
水口哲也

TALK SESSION #05

開催日時
2016年9月18日(日)15:00〜16:30
開催場所
ソニービル 8F「コミュニケーションゾーン OPUS(オーパス)」

銀座ソニーパークプロジェクトを記念してのトークセッション5回目。今回は、『Casa BRUTUS』編集長の松原亨さんと、クリエイターの水口哲也さんをお招きし、「都市と仮想現実の未来」をテーマにお話をお伺いいたしました。

VRが120年の映像の制約を解放する

松原:10月にソニーからPlayStation®VRがいよいよ発売になりますが、日常生活にもVRが影響を与える時代になってきています。
そこで今日は、VRソフト『Rez Infinite』のクリエイターでもある水口哲也さんに、VRとリアルな現実の関係についてお話いただきたいと思っています。

水口:最初の『Rez』は2001年、PlayStation®2用のソフトとしてリリースしました。これは、シューティングゲームという、飛んでくる敵を撃っていくジャンルです。『Rez』の設定は、電脳空間を侵そうとするウイルスをシュートして浄化していくというものですが、効果音がテクノミュージックなんですね。ただ敵を倒していく達成感を味わうというのではなく、ゲームで遊んでいるつもりが音楽を演奏しているような感覚になっていく。共感覚をコンセプトとしたものでした。

効果音が音楽になり、音楽がビジュアルと呼応して、さらに振動としても伝わるものを目指しました。今回の『Rez Infinite』は、そうしたゲーム性をさらに拡張し、360度すべて見渡せて3D空間を自由に飛び回れる、今までになかった没入感を実現させました。VRのイノベーションは、360度見渡せるフレームのない世界と、3D空間、この2つこそだと僕は考えています。

松原:僕も下のショールームでPlayStation®VRを体験しましたが、本当にこれまでとは違うものですよね。今までの四角く平べったい画面の中の映像とは全く別物。

水口:そうなんです。リュミエール兄弟やエジソンが映像をこの世に誕生させて約120年、最初は白黒で無音だったものが、音声を持ちカラーになり解像度も上がり、CGも発達してきました。でも、常に変わらなかったのが、映像は四角いフレームの中のものということでした。その制約があるからこそカットが切り替わったりカメラが移動したりといった映像演出の芸術が発展したわけですが、VRの登場で、映像はついにその制約からも解放されることになったんです。

現実を面白くするVR技術

松原:水口さんはどうやって『Rez』の着想を得たんでしょうか?

水口:昔のゲームには生理的な達成感はあったけれど、ゲームによって気持ちが動いたり泣いたり、ということはなかったですよね。ですが、どんどん音や映像の解像度が上がっていくと当然、人の感情に触れるような形に進化していく。その技術を活かした気持ちのいいものを作りたかったんです。
そこで考えたのが音楽です。音楽って世界中どこの誰でも、共通して気持ちよくなれますよね。性別も人種も超えて、遺伝子として人間に組み込まれているもの。もともと僕らの頭の中にあるイメージというのは、映像や音や言葉の境界なんてないんです。それを表現する際に、バラバラに切り分けられる。これらをもう一度統合したかった。最初の『Rez』もコントローラーだけじゃなく、別売りの振動装置を作ったりして工夫したんですが、やはり限界はありました。そういう意味でも、VRの時代が来たら真っ先にこれをやりたいと思っていました。

松原:VRの時代が来るとわかっていましたか?

水口:わかっていましたね。でも、僕が予想していたのよりも早かった。

松原:発売予定はありませんが、『Rez Infinite』の振動を全身で感じられるスーツも作られていますよね。生のコンサートに行くとスピーカーからの音圧を体で感じられますけど、このスーツがあれば、もはやコンサートに行かなくても、家にいながらにしてライブ体験ができそうです。

水口:確かにVRの登場で、その方向に大きく振れるとは思うんですよ。現実よりもVRでさまざまな体験ができるようになる。さらに、そこでVRならではの演出もどんどん生まれる。でも、そうしたVRならではの実験や体験は、必ず現実世界に吹き出てくると思うんです。VRで培った色々なイマジネーションが、クリエイターによって題材化されることで現実の生身のものにフィードバックされていく。生のコンサートがVR技術を踏まえてさらに面白いものに変化していくと想像しています。

松原:VRモニターがさらに進化して、ヘッドセットをかぶりながら現実世界とリンクするような感じでしょうか。

水口:そうですね。しかも小型化してモバイル化することで、今のスマホのような機能も搭載されるでしょう。最初は奇妙に思われるでしょうけれども。

松原:確かに、携帯電話が普及し始めたときに電車の中で変な目で見られたりしましたけど、今では誰もがスマホをいじっていますからね。

水口:10年後には誰もがVRを持ち歩いている、なんてことも充分ありえますよね。

仮想現実を踏まえた都市設計

水口:僕の友だちがSNSに、イタリアのある街にいる自分の写真をアップしたんです。実はその場所は、彼の亡くなったお父さんが若い頃に旅行した場所で、彼はその場所を見つけて、お父さんと同じ場所で同じポーズ、同じ構図で写真を撮った。

VRやARといった仮想現実技術は、今後こうやってどんどん現実世界に埋め込まれていくと思うんです。今から100年前の東京の映像はなかなか見つからないかもしれないけど、今から100年後には今の時代のキレイな風景が仮想空間に積み上がっているはずです。そして、これからの都市設計は、こうしたテクノロジーも組み込んでいく必要があるんじゃないかと思っています。
現実というのは、一般的に手に触れられるものだと思われていますが、僕は頭の中にあるものも現実だと思うんですよね。例えば建築というのは、建築家の頭の中にある現実を形にしたものだ、ということもできる。

松原:わかります。物理的なもの以外の要素が、実は物理的なものと同じくらい社会的な側面を持っていて、そういうものもデザインしていかないといけない、ということですよね。
例えば、今、都市開発をするときに、これまであったものを全部壊して新しいものを建てるのではなくて、リノベーションしたり、それまで建っていたものの記憶やイメージを引き継いだものを作ったりといったことが世界的に流行っています。建築が物理的な建築であるということだけでなく、その建物が歩んできた50年間の記憶とかイメージを引き継いでつくる方が効率的だと考えられるようになってきたんです。
新しいものをデザインして創っていくよりも、みんなの頭の中にある記憶やイメージを利用する。VR技術もそうしたものの一部になっていく。今後は物理的なものもそうでないものも含めたところまで視野にいれてデザインしていく必要がある時代ということかもしれませんね。

水口:そうですね。このソニービルも建て替えるわけですが、建て替えるなら何をもって建て替えるのか。対談前に楽屋で松原さんが「ショールームとしてのソニービルはもういらないのでは?」と仰ってましたよね。

松原:ソニービルが誕生した1966年は、ソニーの商品は電気製品だけでした。でも今は映画やゲームや音楽など、モノではなく文化を商品とする会社に変化しています。となると物理的なショールームはもう必要ないというか、それだけじゃ意味がないと思うんです。

水口:すごく有機的なかっこいいモニュメントのようなものを作って欲しいけど、そこに今までとは全く違う発想、仮想現実を積極的に取り込みながら、そこに行かないと体験できないものになると楽しいですよね。

松原:特にソニービルが建つこの場所は銀座の顔でもあるわけですし、VR技術の先端を走るソニーがリアルな空間にどんなものを作るのか、非常に興味がありますね。

PROFILE

松原亨
松原亨
1967年東京生まれ。1991年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、マガジンハウス入社。男性ファッション誌『ポパイ』の編集に携わり、ファッション、音楽、インテリアなどを担当。2000年より月刊『カーサ ブルータス』創刊に参加。「ケーススタディハウス」「イサム・ノグチ」「安藤忠雄とメキシコへ。ルイス・バラガンを巡る旅」「そろそろインドに呼ばれていませんか?!」「建築家が教える環境の授業」「アップルは何をデザインしたのか」など、幅広いテーマの特集を編集者として担当。2012年同編集部編集長に就任。
水口哲也
水口哲也
1965年生まれ。ビデオゲーム、音楽、映像など、テクノロジーを駆使したインタラクティブな創作活動を続けている。2001年、ビデオゲーム「Rez」を発表、2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、Ars Electoronicaインタラクティヴアート部門名誉賞などを受賞。その後、音楽の演奏感をもったパズルゲーム「ルミネス」(2004)、キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、VR作品「Rez Infinite」(2016)、VRとともに音を全身で触覚体験する「シナスタジア・スーツ」(2016)などを制作。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)が選ぶ「Digital 50」(世界のデジタル・イノベイター50人)の1人に選出される。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。