GINZA SONY PARK PROJECT

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建築らしさと人らしさ

monogoto
濱口秀司
GROOVE X
林要

TALK SESSION #08

開催日時
2016年11月6日(日) 15:00〜16:30
開催場所
ソニービル 8F「コミュニケーションゾーン OPUS(オーパス)」

銀座ソニーパークプロジェクトトークセッション第8回は、ソニーパークプロジェクト外部有識者メンバーのお一人でもある、monogotoの濱口秀司さんと、感情認識ヒューマノイドロボット「ペッパー(Pepper)」立ち上げ時の開発リーダーで、現在は新世代の家庭用ロボット開発をしているGROOVE Xの林要さんをお迎えし、ロボットにも通じる「建築物のありかた」について語っていただきました。

自己実現を促すロボットと建築

林:私はもともとクルマ屋で、ドイツでF1開発をしたり、欧州やトルコを拠点とした量産車の開発等をしたりしました。同時に、趣味で孫正義さんによる次世代リーダー育成の学校にも通っていたところ、孫さんから「ロボットを作らないか」と声をかけられ、昨年までペッパーの立ち上げに関わっていました。

その後、「GROOVE X」という会社を立ち上げました。2019年に発売予定の新世代家庭用ロボットを開発中です。これはペッパーの反響を丹念におったところ、今はまだ世の中に存在しないタイプのロボットが社会に求められている事に気付いたので、それを開発しています。

ロボットとひとくちに言ってもいろいろありますよね。私たちは、その単語が表すモノの中に、相容れない2つの存在が内包されていると思っています。

まずは、機能を重視したロボット。人の代わりに仕事をしてくれて、最終的には、コスト削減に繋がるものです。つまり、洗濯機や自動車ですね。そしてもう1つは「人を癒やす」など感性に訴えるロボット。こちらは最終的には、人のそばにいることで、その人が持っている潜在能力を回復したり、伸ばしたりするために必要な存在です。私たちが作ろうとしているのは、後者のタイプです。

文明の進歩で前者が進化し、人間は時間的な余裕ができた。日本人はかつて、盆と正月で年間6日しか休日がなかったのに、今では週休2日ですよね。我々はこうして余った時間を、自分の自己実現に使うことに組み入れている。その時に受け皿になるITってまだ少ないんです。そこで自分たちの潜在能力を回復したり、成長させてくれる可能性のあるITデバイスを、今、私たちは作っているわけです。

濱口:機能も重視されつつ、人の能力を解放したり、癒やしてくれたりするという意味では、建築物も同じものだと思います。そこで今日は、ロボットの専門家である林さんから見て、建築らしさとは何か、人らしさとは何か、というお話をお伺いしたいと考えています。

林:建築物のスタートは、集団生活をするための住居ですよね。人間は、動物としてはすごく弱い。長い年月、子育てをする必要のある人間には、集団生活が有利だったし、そこで身を守るためには集団のための巣として、住居が必要だった。そのライフスタイルを好む本能を持つ私達には、今もその名残があるわけです。たとえば、カフェ。狭くてうるさくてどんな人がいるのかわらないのに、わざわざお金を払って混雑するカフェで仕事をしたり、本を読んだりする。逆に人の気配がなく、だだっ広く静寂なカフェは落ち着かない。これって冷静に考えると、一見合理的じゃないですよね。しかし、僕らは一人じゃ寂しいし落ち着かないんです。空き時間ができた時に、必ずしも安全で快適な部屋を一人で謳歌したりせずに、カフェに出かけたりする。全く生産性のないSNSやソーシャルゲーム、あるいはペットが流行するのもその証拠でしょう。

建築物というのは、人やペットと一緒にいることで安心して過ごし、想い出を育み共有する「社会的な場」として重要なものと考えています。建築物自体がどれだけお洒落か、エキゾチックかといったところは、社会的な場に必要とされる副次的な要素に過ぎないわけです。

濱口:人間には建築物が必要で、その建築物があるから人間らしさも変化していく、ということでしょうか。

林:おっしゃる通りです。

一部を残すことで過去と未来を同時に感じさせる

濱口:ソニービルは、建築家の芦原義信さんにとっての代表作であり、建築史的にも重要なビルです。花びら構造になっていて、上から下までシームレスにつながっている。

ソニーパークプロジェクトは、この重要なビルを解体する、というものですから、絶対に反対意見が出る。そこで、いかにして、そうした人々に納得いただけるプロセスをつくるかということをソニーさんは当初から考え抜いていました。

そのうちのひとつとして、基本的には建て替えに慎重な立場である有識者の方にプロジェクトにも加わっていただき、議論を重ねてきました。当然、会議の最初は紛糾するのですが、ディスカッションを続けていくことでこちらのロジックや想いも伝わり、最終的に賛同していただけた。芦原建築へのリスペクトとして、ビルは解体するけど花びら構造の特徴がわかる下層部分を象徴として残すという、メンバーが考えた案も有効でした。

林:ここで面白いと思うのは、そのリスペクトという情緒性が合理的な事です。ソニービルが機能として優れていたのは確かですが、訪れた方々の記憶の中では、いつどこで何が展示されていたのかはあまり重要ではないかもしれません。

それよりも、ここにいつ誰と訪れ何を感じたのか、そういう多くの方の中に残る記憶こそが、未来に向けての重要なアセットだと思うんです。だからこそリニューアルで、特徴的な花びら構造を一部残しながら新たなものを作る、というやり方は、記憶を呼び起こす機能として素晴らしい。訪れる人が、過去の様々な想い出を引き出せるアイコンを提供しながら、その上に未来を積み重ねる。僕らも新しいモノを作るときにいつも考えるのは、過去があるから次のものが「新しい」と感じる、ということなので、とても共感します。

ヒトには、エモーショナルで直感的な「無意識」の部分と、ロジカルで理性的な「意識」の部分があります。脊髄が情報を伝え、無意識に入り、その一部を選択的に意識する。人間以外の動物には、このロジカルで理性的な意識というものが、それほど発達していません。生物のシステムは、認識、無意識的判断、行動が基本なんですね。

でも、人間は、そこに意識という情報処理を加えました。ホモ・サピエンスの歴史は20万年ぐらいありますが、言語情報をベースにした認知革命がおきたのが3.5〜7万年ぐらい前と言われており、割と最近のことです。この際に獲得した認知のメカニズムを紐解き、意識という機能はあとづけのシステムだと考えるのが「受動意識仮説」です。「我思う故に我あり」というデカルトの言葉がありますが、意識はあとづけで増設された認知システムに過ぎないと考えた結果、デカルトのあの理屈は間違っている、と近年では言われてきています。

この意識を獲得した人間の何がユニークなのかを、例えば「提出期限の迫った宿題をまだやっていない事を認識した時」で考えてみましょう。ヒトが「ヤバイ」と理解して、意識が「宿題をやる」と決めたとします。コンピュータだったら「宿題をやる」と判断すると、そのまま宿題に取り掛かるわけですが、意識を後から増設したヒトというシステムは、「宿題をやる」という意思決定に従い机に向かいながら、そこでなぜか漫画を読んでしまったりする。こういう一見矛盾に満ちた行動をコンピュータに破綻なくやらせるのは、すごく難しい。これはまさに意識の意思決定と、無意識の行動決定が分離している一風変わったシステム構成によるものです。

最近ソニーから出たPlayStation®VRに代表されるVRのデモでも、実際には床の上においた高さ数センチの細長い板の上を歩く時に、VRの映像では高いところにかかる一本橋を歩いているような映像を映すと、無意識の力を思い知ります。意識の上ではただの映像だとわかっているのに、無意識が「これはリアルだ」と解釈して、一本橋から飛び降りる事が大変怖くなる。建築物というものもまた、そうした無意識の反応を呼び起こしてしまうので、とても重要です。

ソニーパークに、ソニービルの一部分を残しておくことで、訪問者のこの場所に紐付いたあらゆる想い出を想起させる可能性を得たと言えます。その過去の想い出の延長で、新たな未来を構築できる。そうして過去と未来のギャップを良い意味で人が感じられる場になる。

濱口:建築と人が交わる領域を探っていくことが、それぞれのらしさを考えることにつながるのではないでしょうか。

人間と建築はよく似ています。人間は論理的に考える一方で、感性に訴えかけることの両方を行う。建築も倒れないように設計をしながらも、感性に訴えかけるような意匠も施されています。論理と感性が両方備わっているのが人間らしさと建築らしさの共通点です。

エピソード記憶で想像力を喚起

濱口:ソニーパークのコンセプトは、中間生成物としては公園なんですけど、その後ビルを拡張していくことになっています。その際、機能的に完成度の高いものではなく、意図的に未完成なものにすることも検討しています。

林:公園にするというのは、展示物などを用いて情報を伝える機能より、場所への愛着を重視していると言えますよね。愛着形成に、情報伝達機能は必ずしも必要ないので、合理的だと思いました。たとえばロボットでは、喋るのと喋らないのとどちらが好きかをスターウォーズのロボットでアンケートをとると、日本でも海外でも、喋らないノンバーバルのロボットの圧勝なんですよ。愛着形成において、情報伝達機能は必ずしも必要ない。ソニーパークも情報伝達機能より、場への愛着形成を重視しているということだと捉えました。

濱口:昔のAIBOも、ほっとくと壁に頭をぶつけて動けなくなったりして、その未完成さがかわいかった。何かが欠損しているものの方が愛情の対象になるのは、理由はわからないけど本当だと思います。

林:fMRI(機能的MRI)で人間の認知に関する脳の反応を検査すると、世界中で論文が書けるぐらいにはヒトという種で共通の定型反応が多数みつかっているわけです。なのに、「本音を喋れる相手は何人?」といったアンケートをとると、1人もいないという回答が約2割で、6人以上に話せるなんて人は、ほぼいない。人間はだいたい共通で定型の認知構造を持っているのに、お互い違うと思って、本音を話すことができないわけですね。

これは、認知革命で獲得した言語による情報処理が影響しているかも知れません。言葉を使って、極めて正確に情報を受け取れるようになったことで、個人個人のちょっとした考え方の違いが明確に伝達されるようになった。

一方、ペットを飼っていると、飼い主はペットと心が通じていると感じます。 fMRIで検査すると、人間と動物の認知や情報処理の仕方は、内容がすこし高次で抽象的になると共通点がなくなる。このように認知の仕方が大きく異なるのに、ペットと心が通じるように感じる理由の一つは、人がもつ「エピソード記憶」によるものだと考えています。ヒトは、物事を物語のフレームワークにあてはめる事で、効率的に情報処理をしている。これは現在のAIでは実現できてないし、当面は実現できる兆候も見られません。

ヒトは、情報をフラットにとらえて無数の可能性を考慮する、なんて効率の悪いことはせず、全ての情報を自分の持っている物語の枠に押し込めるという思考のバイアスをかけることで、情報処理を効率化している。その枠組の中では、僕らはペットがヒトと全く違う事を考えている、なんて仮定はおかず、自然に「ペットと心が通じている」と考えるわけですね。それができるのは、言語による情報交換がない分、明示されていない行間を好みのエピソードで埋める事が許されているからとも言えます。

ペッパーを作るときにどんな会話を希望されているのかをいろんな人たちに聞いたところ、とにかく「うんうん」とうなずいてくれるだけでいい、理解すらしてくれなくてもいいから、人の話をひたすら聞いてくれるロボットが欲しい、という意見が女性から寄せられました。アドバイスなんかいらないと。

そう考えると、言語情報の交換を基にした、高度で意識的なバーバルコミュニケーションはあくまで「応用」であって、無意識のノンバーバルコミュニケーションこそが「基本」なのかもしれません。

濱口:建築物と人の関係にも反映すべき考え方ですね。ただ、想像力を喚起するものが言語の有無によるものなのか、それ以外の何かなのか、そこも含めて銀座ソニーパークプロジェクトに活かしていきたいです。

このプロジェクトは世界的にもユニークなものです。"公園"とは何かに対する挑戦。ソニーパークが成功すると、世界中の都市に新しい"公園"ができるかもしれない。世界中の都市に見たことのない"公園"ができるムーブメントが生まれ、遡っていったら始まりは銀座ソニーパークだった。そんな壮大なプロジェクトの野望も持っています。

人間らしいから生まれるアーキテクチャと、建築らしいから生まれる人間らしさを実現できる場所にしていきたいですね。そのためには、ぜひみなさんにも参加してもらいたい。

PROFILE

濱口秀司
濱口秀司
monogoto CEO, Ziba Executive Fellow
京都大学卒業後、松下電工(現パナソニッック)に入社。研究開発や全社戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年に米国のデザインコンサルティング会社Zibaに参画。USBフラッシュメモリなど様々なコンセプト作りをリード。パナソニック電工(株)新事業企画部長、パナソニック電工米国研究所(株)の上席副社長、米国のベンチャー企業のCOOなどを歴任。 2009年ZibaにDirector of Strategyとしてリジョイン。2013年、Zibaのエグゼクティブフェローを務めながら、自身の実験会社「monogoto」をポートランドに立ち 上げ、ビジネスデザイン分野にフォーカスした活動を行っている。
林要
林要
東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院終了後、トヨタ自動車株式会社に入社。
スーパーカー"LFA"などの空力開発に従事後、Toyota Motorsports GmbH(ドイツ)にてF1開発に従事。2011年「ソフトバンクアカデミア」外部第一期生として参加後、2012年にソフトバンクへ入社。同年、ソフトバンクにて感情認識ヒューマノイドロボット「ペッパー(Pepper)」の開発リーダーとして着任後、2015年6月、感情認識ヒューマノイドロボット「ペッパー(Pepper)」が発売開始。2015年9月に同社退職後、11月にGROOVE X 株式会社を設立し、同社最高経営責任者(CEO)に就任。